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小箱の小話
東方二次小説が多目。 エログロ、ホラーミステリ洗脳色仕掛け等。
桶中の銀河
 私の名前は霧雨魔理沙、この幻想郷に自由に生きる魔法少女だぜ。
 そうそう幻想郷にはよく"異変"が起こる。
 "異変"と言っても何も幻想郷が崩壊するとかそういったものじゃなくて、日常のささいな出来事の集まりなんだ。
 それに"異変"を解決するのは決まって友達の巫女、博麗霊夢と相場は決まっている。
 今回も私は異変解決は霊夢にまかせて自分は観光目的のお遊び気分のはずだったんだぜ……。


「魔理沙! 何よそみしながら飛んでるのよ! 地底は何が起こるかわからないのよ!」
 人形からアリスのけたたましい声が聞こえる。
 私は今異変解決のために地底の奥深くへと侵入しようとしている。
 地上に怨霊があふれ出る原因が地底にあるというのだ。
 さして異変にも興味がなかったが腐れ縁のアリスがせかすのでしかたなくここに来ている。
 アリスの声は人形から常に聞こえてきているが理屈は全くわからない。
 やれやれ……不便な世の中になったもんだぜ……

「それにしても一体どこまで下降するんだ?アリス?」
「まだよまだ……地底の底へはまだつかない……!? 魔理沙危ないっ!!」
「えっ!?」
 アリスの声が聞こえた瞬間、私は鋭い頭部への痛みとともに意識の糸が切れるの確認した。





「……う~ん……痛てて……」
 私はぐらぐらする頭をしゃっきりさせながら目を覚ました。
「ここは……?」
 どうやら周りを見渡すと地底世界のようだ。辺りはひんやりと静まって静寂に包まれている。
 しかし…何かがおかしい??
 手足が全く動かないそれに視線が異常に低いのである。
 目と地面が非常に近い。私が自分の置かれた状況の理解に努めようとすると目の前に桶が現れた。
 いや、正確には桶の中に人がいた。

「えへへ……気にいってくれたかな……?」
 桶にはまった人物(?)はそう話しかけてきた。全く意味がわからない。
 私が押し黙っていると桶は顔を赤らめてもじもじしながら続けて口を開いた。
「あ……ごめんね…急すぎるよね……これから一緒になるんだし……私はキスメっていうの。あなたの名前は?」
 一体全体何を言ってるのかわからない。私は桶の方に一歩踏み出そうとした途端にけっつまずいて転んでしまった。
 体が何か妙におかしいが手をついて立とうとしたが手がなかった、足もなかった。そしてそのまま世界がぐるぐると回った。
 やっと私は現在の状況を理解した。私自身が下半身を桶にすっぽり包まれていた。
 肩から腕は生えているがひじの先から桶の中の暗い暗黒空間に消えてしまっている。
 消えている手も足も全く感覚がない。私はひどく混乱してしまった。

「大丈夫だった? ごめんね驚かせちゃって……」
 ごろごろ横に転がっている私を桶が助けてくれた。
 薄緑の短く切りそろえた髪、まるまるとした大きな瞳、白い寝巻きような布を身に着けて、体と桶がほぼ密着しているかのようにぴったりとおさまっている。
 そしてほとんど赤ん坊のような可愛らしい手を桶のへりにちょこんと乗っけている。
 幼い顔立ちだが桶にはまった人間など聞いたことがない。おそらく魑魅魍魎妖怪の類なのであろう。

「なぜ私は桶に……?」
 私はそうやってせいいっぱいの発言をした。
「だってあなたは運命の人なんですもの……」
 目を潤ませながら桶はそうつぶやいた。
 妖怪に対して真っ当な返答は期待していなかった。
 現在は手も足も使えない、私はどうにかしてこの桶から脱出するすべを見つけなければならなかった。
「ねぇねぇ、さっきも聞いたけどあなたのお名前は?」
「私は霧雨魔理沙、魔理沙でいいぜ」
 こうして私の地獄の日々が始まった……






 キスメと名乗った桶はぴょんぴょんと跳ねて移動している。
 一体どういう構造になっているのだろうか? 私もあのように移動できるのであろうか?
 そんな思案をめぐらせているとキスメが話しかけてきた。
「ねぇ魔理沙、お腹すいたでしょう?これから地底の住人になるんだから、まずは地底の食べ物に慣れなくちゃね」
 勝手に地底住人にされているがまっぴらごめんだ。しかし当分はこのキスメの言うことを聞くしかない。
「あ、ああ……」
「魔理沙は野菜とお肉どっちが好き?」
 私は野菜はあまり好きではなかったが肉と答えたら変なものを出されそうな気がしたので野菜と答えた。
「わかったわ少し待っててね」
 そう言ってキスメは闇の中へと消えていった。

 しばらくするとキスメは壷のような容器をかかえてきた。
「のど渇いたでしょう?まずはお水を召し上がれ♪」
 壷は水甕だったようだひたひた冷たそうな水がたっぷり入っている。
「あっそうか魔理沙は手が使えないんだった……私が飲ませてあげるね」
 キスメは手のひらに水を溜めて私の口元へと持ってきた。
 近くで見るとずいぶんにごっている……飲んでも大丈夫なのだろうか……
 キスメの気分を害するのもまずいと思い私はすするように水を飲んだ。
……まずい、苦味が強烈でどこか腐臭がただよっていた。
 毎日飲んでいたらすぐに死んでしまいそうな味だった。
 それでも私は喉の筋肉を使い胃の中に水を流し込んだ。
「おいしい?」
「も、もちろん、お、おいしかったぜ」
「ふふ~嘘ばっかり苦虫をかみつぶしたような顔して、でも大丈夫すぐ慣れるよ」
 絶対慣れるはずがない。死んでしまうわ。

「ふふ……さぁお次はメインディッシュのお野菜です! これはチテイウモナバゴケと呼ばれる、よく食用になる一般的な野菜の一種だよ」
 どきつい緑色のコケ、どうみても人間が食べるものではなかった。
「ほらこの緑色私の髪みたいで綺麗でしょ? ……これ私だと思って食べてくれたら……なんて……」
 声を細めて頬を染めながら世迷言を言っている。一体何を考えているのだろうか。
「そんなに顔そむけてそんなにいやなの?喰わず嫌いはよくないよ? ……そっか初めてだし緊張してるんだね、それにこれ固いから人間にはちょっと骨だろうからね……そうだ!」
 キスメ何か閃いたようだった。何をするのかと見ているとキスメは緑色のコケを口に入れてゆっくり咀嚼し始めた。
 まさか……
「まりひゃくひうつひ~♪」

 キスメの幼い顔が目の前に迫ってきた。私は歯をくいしばって耐えていたが小さなキスメの舌が唇を割って口内は侵食していく。
「ん……ちゅ……ん……」
 少し開いた隙間からキスメの唾液と混ざったコケが次々と口内へ送りこまれていく。
 明らかに食物ではない物体による嫌悪感、他人の唾液を飲まされる気持ち悪さに私はすぐに吐き出してしまった。
 緑色のぐちゃぐちゃのソースがあどけないキスメの顔と白い着物を汚していく。
「うえっ!! ぺっぺっ! はぁ……はぁ……」
「そんなにいやだったの……?」
 キスメの顔がソースと涙で歪んでいる、妖怪とはいえいささか申し訳ない気持ちになってしまった。
「でも……食べないと……ダメだよね………うん……」
 キスメの顔が急に引きつった笑顔を作った。
 しばらくへらへらとだらしない笑いを浮かべた後、何を思ったかキスメは私が吐き出したソースをかき集めて再び口の中へ入れた。
 くっちゃくっちゃと咀嚼する音が響く。
「今度はさっきよりも柔らかくするからもっとおいしいよ~♪」

 再びキスメの顔が眼前に迫る。私にはもう抵抗する力は残っておらず、あっさり受け入れてしまった。
「んちゅ……んちゅ……ちゅ……」
「んん~~! うぅ~~~」
 私は涙目になりながら自分とキスメの唾液が混じった緑色のソースを飲み込もうと苦心した。
 全く味はわからず、ただヌメヌメとした喉の通りの悪い物質が胃の中へと流れ込んでいく。
 胃がでんぐりがえっている。私は吐き気を必死で耐えようとするがキスメはまだソースを送りこんでくる。
 もう限界だ我慢できない……。
 胃の底からすっぱいものが唾液ソースとともにせり上がってくる。
「うぼぉあああっ! がっああぁんっ!」
 なんというとこかキスメはそんな私の逆流を予期していたのか口を大きく開けて、噛み付くようにして私の吐瀉物を飲み込もうとしているのだ。
 ゴクンゴクンと吐瀉物が放出されるたびに幼い喉を音を鳴らしている。
 私の嗚咽がおさまるまでキスメはまるでディープキスをする恋人のように優しくしていた。
「魔理沙のおいしかったわ……。でも次からは私のもちゃんと食べてね約束だよ♪」
 私はそんなキスメの満面の笑みを見ながら意識が途切れた。













 頭がとても痛い。胃も鈍い鈍痛が終わることなく続いている。
 この桶におさまってからどれくらい時間がたったのだろうか?
 二日いや三日? 一週間? 太陽のないこの世界では人間は時間間隔がわからない。
 キスメが私を悲しそうな目で見つめている。
 反省したのかわからないが、コケを食べさせるのはやめたようである。
 しかしどれだけの時間かわからないが水だけ、それも腐ったような水を飲んでるだけである。
 段々体が衰弱していくのがわかる。ちなみに排泄物はこの桶の空間で処理されるのか全く溜まらないし匂いもしない。
 頭が痛いので深くは考えないようにして、ただただ目をつぶっていた。

 そういえばアリスはどうしたのだろう。
 元はと言えば私を異変解決に狩り出した張本人だ。
 そうだ今まで忘れていたが私が行方不明になればきっとアリスが助けてくれるに違いない。
 そうだそうだアリスの存在をすっかり忘れていた。
 これも後少しの辛抱だと思うと、少し安心して私はゆっくりと眠りについた。


 ……周りがうるさい誰かがしゃべっているようである。
 うつらうつらとした意識の中私は話を聞いていた。
「またかいキスメ、いい加減あきらめたらどうだい。それにこいつは人間じゃないか」
「いいえ、私にはわかるの魔理沙は運命の人、だってあんな衝撃的な出会いだったもの……。今はちょっと地底の空気に慣れてないだけ……。私が愛をこめればきっと元気になるわ!」
「人間はそんなに丈夫じゃないんだよ。ここではちょっとのことでも致命傷さ…!? 大変だ!この人間すごい熱だよ!」
「ヤマメちゃんどうしよう……私……私……」
「こうしててもしかたないよ、さとりさんならきっとなんとかしてくれるさ」

「せっかく来てくれてもうしわけないのですがここは病院でもないし、人間用の薬なんてもの置いてないのですよ。水橋さんを訪ねてみてはどうでしょうか? 彼女は元人間ですし何かいい知恵を貸してくれるかもしれません」
「そうだ!そうだ!ヤマメちゃん早く行こう!」





 ……長い長い眠りから覚めたように私はパッチリと目を開けた。
「あ、気がついたのね、初めまして私は水橋パルスィ、地底の一妖怪よ」
 どこかの民族衣装を身に包んでいて、ウェーブがかった金髪に尖った耳は、ファンタジー世界のエルフを思わせるが深い緑色の目はどことなく悲しげだった。
「びっくりしたわよいきなり桶に入ったあなたがかつぎこまれたんだから、幸いここには地底にしては綺麗な井戸水も引いてあるし、人間に比較的合いやすい食べ物も仕入れてるわ」
「そうだったのか感謝するぜ」
「ああお礼ならキスメに言って頂戴な。あの子はあなたに付きっ切りで看病してたんだから。全く、妬ま……」
 急に怖い顔になってぼそぼそと独り言を言い始めた。やはり地底の妖怪はどこかおかしい。

 程なくして聞きなれた効果音とともにキスメが登場した。
「魔理沙!よかったぁ~~」
 いきなり首に手を回してキスをまぶしてきた。
「く、苦しいぜ……」
「へぇ人間がたいした生命力だね、さすがキスメが見込んだことだけはある」
 下腹部が妙に膨らんだ服を着ている。彼女も妖怪なのであろうがどこか陽気である。
「私は黒谷ヤマメって言うんだ。まぁ今後お見知りおきを」
 水橋パルスィが急にいたたまれなくなったように部屋を出る。何か気に触ったのだろうか?
「あいつのことは気にしなくていいよ、それよりキスメ、魔理沙の快気祝いでもしたらどうだい? ちょうどいい獲物が手に入ったんだよ」
「そうね! 魔理沙の快気祝い! 賛成!」
 と言いながらキスメは嬉しそうに私にほお擦りを繰り返すのだった。




「やぁやぁあんたが噂の地上人かい。まぁ飲みなよ! 飲めばわかるハハハ!」
 宴会の席も盛り上がっている。私にしつこくからんでいるのは星熊勇儀という鬼だそうだ。
 思えば私も多数とこんなふうに宴会をしたこと覚えがある。しかし熱にうなされてから頭の調子がおかしいのだ。昔のことが全く思い出せない。鬼と、赤白……巫女……?う~~ん……。
「ねぇねぇ魔理沙どうしたの?疲れちゃった?」
 私の気分を察したのかキスメが心配そうな目で見つめてきた。
「ううん、大丈夫だ。それよりこの肉おいしいなぁ」
「そうねヤマメちゃんは狩り上手だから、いつもおいしい肉を仕入れて来てくれるのよ」
 なんの動物なのかはわからないが今まで味わったことのない触感だった。
 かめばかむほどジュースがあふれてくる。飽くことのない味のオーケストラ。
「はいも一つあ~~ん♪」
 口を開けると水橋パルスィがものすごい形相でこっちをにらんできた。
 聞けば彼女は嫉妬妖怪なので常に妬ましくてしかたないらしい。全く不便な能力である。

「え~それではこれより謙虚なわたくし、黒谷ヤマメの数ある武勇伝の一つをご披露したいと思います。皆様がご存知の通りわたくしは地底の入り口を守り番をしており、昼夜毎日休むことなく皆様の安全をお守りしております。今までになぎ倒してきた不埒物は数多、わたくしの両手両足両目の数よりも幾多にのぼります。時には万里の長城を超えようかという大蛇、天を穿つほど高くそびえる巨人、全てを焼き尽くす灼熱の竜、かつて地上を支配したと言われる大鬼、数々の強敵がわたくしを打倒しようとしましたが知略と戦術に長けたわたくしには通用するはずもありません。え?はい?鬼はそんなに弱くはない? これは失礼、はぁさてはいはいそれではつい昨日今日の強敵について言及承りたいに存じます。知略長ける私はいつものように蜘蛛の巣を張り獲物を待ち構えておりました。みなさん知ってますか? 蜘蛛はなんで巣に引っかからないか、ご存知ない?ああこれはなんたることまさに西から日が出る河童の川流れ鬼の目にも涙。蜘蛛は雲ですから天上人なのですから引っかかりません。そうそう蜘蛛は実は神の使いなのです。はぁ?どうでもいい?それはしかたない?ええそうでしたそうでした昨日勇猛たる我らが地底魔城に一寸の可憐な蝶が舞い込んだのです。わたくしは心苦しくもそんな蝶にも慈悲を与えませんでした。わたくしはいつものように巣にひっついた蝶を捕獲にかかりました。お肉はやはり死んだ時の状態が大事ですからね丁重に扱わなければなりません。苦しませずに一気に殺し、すぐに血抜きをする、これが一番最良の状態です。ええそれでわたくしが蝶を捕獲せしめんと近づいたらですね。なんということでしょうその蝶から妖精が何匹も出てきてわたくしの糸をはさみで切っているじゃありませんか。これにはさしもの私も焦りましたね。ともかくわたくしはその生意気な妖精をこらしめるべく糸を四方八方に伸ばしました。そしたらですね聞いてくださいよみなさん! なんとその妖精がポーンとポーンと爆発したじゃないですか?みなさん花火のように爆発する妖精を見たことがありますか?わたくしは今しがたご存知ありませぬ。それでわたくしはこれはいかん何たる強敵額に脂汗流して頑張りまして、せっせとっせっせと糸をつむいでおりました。わたくしはあんまりにも糸を吐き出したもんですからアソコがおかしくなって参りました。え? アソコって? いやですよみなさん察してくださいフフフ……。さて絶体絶命の黒谷ヤマメ女史、蝶は妖精の数をどんどん増やしてまいります、爆発しているのにおかしいでしょう? しかしそこは戦闘の天才であるわたくし、奥の手を隠しておりました。本当なら使いたくないのですがいたしかたありません。もくもくと瘴気があたりを包み込みますと、蝶はふらふらと蛇行し始め、明らかに弱っているのがわかりました。そこでわたくしはえいやっとありったけの力をこめて糸の塊を飛ばしました。蝶は糸の束に巻かれてかわいそうに、ほどなくして息を引き取り、これにより悲運な蝶はようやく我の虜となりはてたのでありました! さてさてわたくしの武勇伝はまだまだ終わりはありません先日も…………」


 私はヤマメがものすごい勢いでまくしたてているのをぼーっと聞いていた。
「痛っ!!」
「どうしたキスメ?」
「ううんちょっと小骨が刺さったの」
 ぺっとキスメが吐き出したのはどうやら裁縫針のようだった。
 何故針が……? しかし私には何も思いつかなかった。







「ねぇ魔理沙おいしい?」
「魔理沙喉渇いた?」
 あの宴から数日たった。
 キスメはあれから急に可愛げになったように思えた。
 私に親身に接してくれる。私もそれに答えなければと思うにようになった。
 少しはマシになったとはここの水と食べ物はおいしくなかった。
 食べ物はやはりコケである。地底だからしかたないのかもしれないが。
 キスメが唾液と混ぜてトロトロにしたものを口移しで受け取る。
 最初は抵抗があったもののしだいに慣れてきた。
 キスメの唾液は甘く少し苦味のあるコケと絶妙に混ざり合い、これは美味ではないかと思うほどだった。
 時には私の舌を吸ったり歯茎の裏側を舐めたりして私を誘惑した。
 私もお返しとばかりに舌を絡めたりキスメと私の唾液が混ざったものをまたキスメに口移ししたりした。
 とろけるような舌に私はいつまでもいつまでもキスをしていた。

 私は手が使えるようになった、朝起きたらキスメがしてくれたとのこと。
 この桶はどういう仕組みになっているのかは未だにわからないが、とにかく手が自由になったのはできることが増える。
 そして少しづつだが桶を自分の動かして移動させることができるようになってきた。
 キスメのように軽やかにホップできないが牛歩の勢いで動ける。
 人間の私が適応してきている、そんなことに若干の感慨をも受けていた。
 そういえばあの水橋パルスィは元人間と聞いたがその辺の経緯はどのようなものだろうか。
 それとなくヤマメに聞いてみた。
「あの人は私もヤマメもよく知らないのよ、ここは虐げられてきた妖怪が多い、それだけは確かよ」
 初めてキスメのこんな寂しげな表情を見た気がした。

 いつものように食後のキスをしていると空気を読まないヤマメが現れた。
「あやっ? どうぞどうぞお二人さん続けてどうぞどうぞ」
 は続けられるはずもなくそっと離れた。
「ごめんねアハハ、ちょっとキスメちゃん話があるんだけどいいかな?」
「魔理沙ちょっとごめんね…」
 二人は少し離れてひそひそと話している。声をひそめているようだが大体丸聞こえなのが悲しい。
「……でもうやっちゃったの? まだ? そう? 善は急げだよ! 人間の寿命なんてあっという間なんだから! いいんだよ方法なんて、こう、グワっと……勢いで! そうそうそう……」

 ヤマメが去った後なんとも言えない気まずい空気が残った。
「ねぇ魔理沙はここにいて退屈?」
 キスメは少し気落ちしたような声でたずねてきた。
 しんみりと静かな世界を二人で過ごす。以前がよくわからない私にとって今が退屈なのか忙しいのかよくわからなかった。
「私は満足してるよ」
「そう、よかった……、ねぇもっと楽しいことしたい?」
 私はもちろんうなずいた。






 次の朝起きると私はキスメだった。
 いや正確には二人で一つの桶を共有していた。
「これが楽しいこと……?」
「そうだよとっても気持ちいいでしょう?」
 言われた通り精神の充実感があった。
「キス……しよ……」
「うん……」
 私はキスメと舌を蛇のように絡ませた。
 いつもしているキスなのに全く違った快感、感覚の無いはずの下半身が熱くなって二人とも顔が真っ赤になった。
 二人で乳首をつまみあう、熱い下半身、
 好きだ、私はキスメが好きだ。ずっと一緒にいたい。
「ん、んん……ちゅ、んぅ、ちゅっ……んっ!」
 更に絡み合う舌。
「ああぁん……ぁぁん……気持ちぃぃ……ぁぁぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 私の中で何かがはじけた。
どうやらキスメも同じ状態のようだ。
「今のが……?」
「うん、魔理沙、ね……もっかいしよ?」






「おや?そこを通るのはかの嫉妬妖怪として名高い水橋パルスィさんじゃありませんか? 今日は一体どちらへ? ほう、キスメ女史の所へ……それは何用で? なるほど新しく井戸水が沸いたのですか。いや結構なことなことで、それでは私の方がら伝えておきます。え? 直接行く? いやいやそれはまずいまずいですよ奥さん、いや失礼。やぁ今はとにかく絶対ダメですって……え? すごい怪しいって?なんか隠してるって? いやいやいや全く怪しくありませんって本当に。隠し事してるから妬ましい? ちょっとそんな目で睨まないでください、後生ですから。お願いしますよ。ああ星熊大先生おお助けーーーーっ!」






 キスメと幾度も不思議な絶頂を繰り返した。
 この世にこんな快感があるのが不思議だった。
 さすがにお腹がすいたので私たちは食料を探しに出かけた。
 ひしと体を寄せ合ってランランと陽気にスキップを繰り返し、私はまさに天にも昇る幸福で包まれていた。
 いつものコケ発生地へつくとさっそく摘み取りを始めた。
「いっぱい取れたね」
 とキスメ。
「そうだね」
「ここでしよっか」
「うん」
 今は二人で咀嚼しあいながら口移しが日課になっている。
 一度には飲み込まずトロトロになるまで待ってから、更に口移したほうが計り知れない充足感がある。
 桶の中で結合している分、食欲と快感が同時満たされて、なんとも言えない妙な気持ちになるのであった。

「はぁ、はぁ、魔理沙、体が熱いのもっと私のトロトロジュース飲んで……」
キスメが目を潤ませて懇願してくるので私は自分のジュースを交換してあげた。
「おいしいよ、キスメ……んん……」
 ひとしきり愛を分かち合った後キスメが口を開いた。
「ねぇ魔理沙覚えてる?初めてあなたと会った時のこと? あなたに無理やり食べさせて結局吐いちゃったわよね」
 そんなこともあったなと思ったが、遠い昔のことに思える。
「その時魔理沙の吐いた物の味は今でも覚えているわ。ちょっと酸っぱかったけど全部飲み干した時、私はああこの人に一生ついていこうと思ったの。変かな?」
 ちょっとおどけて笑うキスメがたまらなく可愛らしかった。
「変じゃないよ。むしろこっちがお礼を言いたいぜ」
「もう一回あれを味わいたいの……いい?」
 私は無言でうなずいた。

 そうは言っても自力で吐き気を催すのは中々難しい。
 あの時はコケが体に慣れていないせいで自然に吐けたが。
「ふふ、大丈夫だよ魔理沙の中いっぱいにしてあげるから」
 そう言ってキスメは口いっぱいにコケを含み荒噛みのまま口移ししてきた。
 そうか満腹にすれば自然に吐きたくなる、いい考えだ。
「う、うっぷ……もうお腹いっぱいだよキスメ」
「まだよまだ入るでしょう?ほらほらぁ……」
 本当にお腹いっぱいなのだがキスメは意地悪な小悪魔の目つきをして、やつはぎに私の口に詰め込んできた。
「……もご、ぅ……」
 お腹はいっぱいなのに口の中にぎゅうぎゅう詰めなのでさすがに気持ち悪くなってきた。
「ああ出すのね魔理沙、しっかり受け止めて上げるわ……さぁ!」
「ぅぉおぉ……げぼっ!」
 まず口の中のコケを捨ててから、胃の奥から沸いてくる、煮えたぎったジュースをキスメの小さな口めがけて排出した。
 それまで大量に食べていたのが消化されかけの緑色のジュースが延々終わることなくせりあがってくる。
「ん、んぐ、おいしっ、んぎゅっ!」
 キスメが体を震わせて感じている。私も吐瀉物による口腔性行に言いようのない快感を感じていた。
「はぁ……はぁ……。すごいよかった魔理沙。ねぇ魔理沙もこれ欲しいでしょ?」
 私は答えるまもなくキスメにキスされていた。

 酸っぱいような苦いような味が口の中に広がっている。
「お腹いっぱい……もう我慢できないよ……」
 私は唇を合わせながら期待に胸を膨らませてその時を待った。
 キスメがビクンと体を震わせるとものすごい勢いで唇を押し付けてきた。
「ん、げぇ……ぉおおおああっ!」
 私はキスメの愛を全粘膜で受け止めた。
 私の胃液とキスメの胃液、更にはその前に二人の唾液で味付けされている。
 これほどおいしいものはこの世になかった。
 二人だけが作り出せる極上のフルコース。
 ジュースを受け止めた途端に快感に包まれその反動でまた嘔吐してしまった。
 終わることのない永久機関。
 私は本当に幸せだ。







 毎日のようにまぐわりあっていたが、最近は気分が憂鬱である。
 決してキスメが嫌いになったわけではないのだが、体が重く何もやる気が出ないのである。
 キスメも同じ状態らしく、沈んだ表情で話しかけてもうわのそらだ。
 一体全体わけがわからない。
「やぁご両人、ご機嫌いかがですかな?ありゃ?優れませんか?もしや倦怠期? ハハぁ冗談ですよ冗談。いいことを教えて差し上げましょう人という字はですねお互いに……」
 ヤマメがお得意の長話を始めた。本当にこいつはイライラする。
 ああもう早く消えてくれ。



 数日何もすることもなくぼけっとして過ごした。
 感覚はないのだが下腹部が膨らんでいる気がする。
 気のせいだろうが桶のサイズが広がっている。
 もともとは一人用だったのに二人はいったからしょうがないが最近は特にきつい。
 ほとんど水しか飲んでないのに吐き気がする。
 苦しい苦しい。



 ヤマメに聞いたらやっぱり桶がパンパンらしい。
 あからさまにニヤニヤしやがってお前も服の中パンパンだろと言いたい。










 お腹がとても苦しい。
 今日はずっと寝ていた。











 日の光が差し込まない地底に朝が来た。
 目を覚ますと何かがいつもと違う。
 とても体が軽い。
 周りを見渡すとキスメと分かれていた。
 キスメが目を輝かせて私をみつめてくる。
 そしてもう一つ小さな桶に人がはまっていた。
 私は全てを理解しそっと手を差し伸べた。
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