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小箱の小話
東方二次小説が多目。 エログロ、ホラーミステリ洗脳色仕掛け等。
小傘進化論
 少年は山へ山菜を採りに出かけた。ゼンマイやワラビが籠一杯に採れて、少年は満足して帰ろうとした。
山は思いのほか険しかった。夢中で山菜を散策しているうちに、すっかり帰り道を見つける術を失ってしまった。この山は夜になると、人の肉をむさぼり喰う妖怪が現れると聞いている。少年はひどく焦った。烏の泣き声が悲しくこだまし、辺りは夕闇に包まれようとしていた 少年は怖くなって走って、当ても無く山を泳いだ。
 ふと傘を持った人影を認めた。
 ――よかった、これでお家に帰れる。
 少年はそう思った。
 女の人は後ろを向いたまま聞いてきた。
「どうしたの? 坊や?」
「あ、あの……僕……夢中で山菜採ってたら……道に迷って……」
「そう、坊や、早く帰らないと。この山には妖怪が出るのよ。例えば……こんな――」
 女の人が振り向くと少年はそのまま卒倒した。



 

 上白沢慧音は守矢神社へ向かっていた。
 教え子が妖怪に襲われたのである。襲われた子供達の様子は尋常ではなかった。みんな顎を破壊されていた。顎の骨をはずされ、筋肉はずたずたにされていた。精神は錯乱し、食べ物を与えようとするとすぐに吐いた。高い熱が何日も続き、苦しい苦しいとうわごとを何度もつぶやいた。
 なんとか回復した少年に話を聞いてみた。ものすごい怪力で口をこじ開けられたと言った。その先は何も覚えていなかった。妖怪の容姿も記憶になかった。
 
 妖怪の山の頂に近しい守矢神社の一室で、守矢の巫女、東風谷早苗は上白沢慧音の話を聞いていた。
「上白沢様、それで私にその妖怪の退治をして欲しいと、そういうわけですね」
「そうなるな。私も教え子を守るだけで手いっぱいなのだ。とても人里全部は把握しきれない」
「わかりました。この守矢が二柱の力を宿した風祝の巫女――東風谷早苗が謹んでお引き受けいたしましょう」
「ありがとう、恩にきるよ。襲われたのは幼い女の子、男の子、妖怪は力の無い者を狙っている。みなが口を万力のような力でこじ開けられていたのだ。くれぐれも注意して欲しい。それで謝礼の方だが……」
「その必要はありませんわ。上白沢様」
 早苗は凛とした表情で答えた。
「私が妖怪を退治すれば、人は私の力を知る事となる。それは我らが二柱、神奈子様と諏訪子様を信仰するのと同じこと。人間の仇となる妖怪風情はすぐに調伏してごらんにいれましょう」
 慧音は早苗のこの思想は危険だと思ったが、人間を守るためには致し方ないと思った。




 気持ちのよい翌朝、早苗は朝餉も早々にすませ、神社を出立した。
「神奈子様、諏訪子様、それではこれより妖怪退治へ行って参ります」
「おー行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、早苗。遅くならないうちに帰るんだよ」
 気の無い返事で返したのは守矢の神、八坂神奈子だ。外来から、幻想郷で信仰を獲得しようともくろむいわば侵略者である。
 同じく守矢の神、洩矢諏訪子は早苗が心配だった。早苗は諏訪子の遠い子孫にあたる。初め諏訪子は早苗が信仰を獲得するため、妖怪退治にいそしむ事に激しく異を唱えていた。何も信仰獲得の方法はそれだけではない。いくら二人の神の力を下ろしているとはいえ、早苗はただの人間だ。いつか本気になった妖怪に命をとられてしまうのではないか? その心配が諏訪子を悲しませた。
 ――若い内には何でも好きにやらせたらいい。それに信仰は力で得るもの。力とは信仰なり――
 そう神奈子は言っていた。
 かつての諏訪大戦において軍神である神奈子は祟り神である諏訪子を打ち倒した。諏訪子を信仰していた人間は皆、新たな神、神奈子を一斉にあがめた。人間は力で支配できる。それはある意味真実だったが、諏訪子は早苗に、神奈子と同じ道を歩ませたくなかった。
「なぁに早苗は大丈夫さ。心配いらない」
 急にそわそわしだした諏訪子を見かねた神奈子がそう言った。
「でっ、でももし強力な妖怪に出会ったら……」
「いいかい諏訪子、本当にヤバイ奴は無闇に自分の力を誇示したりしないんだ。力を見せびらかすのは小物の証拠なのさ。絶対的強者は常に動かないでじっとしている。自分の力をよく理解しているから腰が座ってて、一筋縄ではいかないんだ。なに早苗にかなう妖怪なんてそうはいない」
 そう言って神奈子は奥に引っ込んでしまった。
「しかし……」
 諏訪子は早苗が最近自信をつけすぎていると思った。
 そして心の奥に湧き上がる不安をどうしてもぬぐえなかった。





 博麗神社の巫女、博麗霊夢はいつものように境内の掃除をしていた。友が来訪すればお茶を飲み、世間話をし、事あるごとに宴会をし、賽銭の額に一喜一憂し、自由気ままに暮らしていた。ただ一つ、妖怪退治の仕事を除いては。
「新聞お届けに参りましたー」 
 バサバサと羽音を打ち立てて登場したのは幻想郷のブン屋、射命丸文である。文々。新聞というゴシップ満載の新聞を発行している。
「何よアンタ、うちは新聞とってないわよ」
「あや? それはいけませんね。新聞とは人生を開くもの読めばたちまち幸せが」
「どこかの宗教団体みたいな文句ね。特に用はないならさっさと行きなさい。しっしっ」
 霊夢はつっけんどんに答えた。
「おやおやいいんですか? せっかくいいネタを仕入れて来たというのに」
「どうせしょうも無いネタでしょうが」
「まぁまぁそういわずに聞いてくださいな。鬼畜――幼子を狙う妖怪、顎破壊魔の恐怖! どうですか? 興味がふつふつと沸いて来るでしょう?」
 文は持っていた万年筆をクルっと回して言った。
「何よそれ、ただの変態じゃない」
「ええ、被害にあった子供はすでに男子八人女子七人、年齢は八~十五歳の間になっています。いずれの子も顎を強力な力で開けられて、顎がはずされたり、筋肉がおかしなことになっています。そして無理やり何かを口に詰め込まれたような形跡がありました」
「へ~ぇ、それでその子達は生きてるのね?」
「ええそうです。ところが物が食べられなくなったり、精神障害に陥ったり、後遺症に苦しんでいます」
「ふ~ん変な妖怪ね。肉を食らうわけでもない。一体何が目的なのかしら?」
「ふふん。その謎が探究心をそそるんじゃないですか? ねぇ霊夢さんこれは異変じゃないでしょうか?」
 文は得意げな顔になって霊夢に聞いた。
「面白そうだけど、私には関係ないわね。幸い、あのスキマ妖怪も何も言ってこないし」
「や、そうですか。それは残念。それでは仕事もあるんでこの辺で失礼します」
「はいはい、さっさと行ってちょうだい」
 文はくるりと振り向いて飛び立とうした。
「そういえば言い忘れていました。東の巫女がこの件に関して動いているようですよ。おっと霊夢さんは知らぬ存ぜぬでしたね。へへへ、それではまた会いましょう」
 文は下卑た薄笑いを浮かべて一目散に空へ消えていった。
「ふん……」
 霊夢は文の事を心底嫌っていた。人の弱みにつけこむような記事ばかり書き、常にネタを求めて慣れなれしい態度で擦り寄ってくる。上の者にはこびへつらい、下の者にはいばりちらす。そんな俗物的思考回路が霊夢には我慢ならなかった。
 しかし近頃勢力を伸ばしている、守矢の連中は気になった。あの時、もっとこらしめていればと思った。
 空を見上げると、はるか遠くてゴロゴロと雷雲が轟いた。




 
 

 多々良小傘は傘の妖怪だった。
 古ぼけた古傘が人知れずに忘れられた物の思いを一まとめにした。忘れ去られた恨みをはらすため小傘幻想郷へと舞い降りた。
 人間を驚かすことは小傘の主食であった。人間の恐怖を得るために色々と試行錯誤を重ねた。かわいらしい少女の姿で子供を招き寄せ、少しうち解けた後におもいっきり怖がらせた。一つ目小僧にしてみたり、口裂け女にしてみたり。それでも子供は怖がってくれた。小傘はそれで満足だった。
 ある時いつものように子供を驚かせて、腹を満たしていた。逃げようとした子供が石につまづいて転んだのだ。擦りむいた膝小僧に血が滲んでいた。子供は痛みと逃げられない恐怖でさらに泣いた。
 子供が泣くと小傘の中の何かが満たされた。子供は痛がっていた。痛みは恐怖につながると理解した。
 もっと痛がらせたいと思った。

 一つ目の顔と耳まで裂けた口のままそばに座ると、子供は大泣きした。
 小さな舌をペロっと出した。ぬらりと唾液でしたたる舌を地面につくまで伸ばした。
 濡れた舌先で少年の傷口をチロチロ舐めてあげた。子供は痛がってまた大泣きした。
 もっと痛がらせたかったが泣き声がうるさかった。
 手で子供の口を手で閉じてみた。
 泣き声がやむと小傘はお腹が満たされた。
 ――そうか泣くのは恐怖をやわらげるため――
 小傘は考察することを覚えた。少しかしこくなった。
 子供の口を手でがっと開けてみた。
 ここから恐怖が漏れていると思った。
 覗いてみると真っ赤な喉が広がっていた。
 恐怖の出所を直接触ってみたかった。
 蛇のような長い舌がうねって、ゆっくりと少年の喉に降りていった。
 少年は心底震えた。
 これがさでずむの起源である。


 小傘は人間の子供を捕まえて、喉を犯すのが日常となった。女の子の喉の方が甘かった。恐怖の出所を探すために、胃の壁を嘗め回してみたが、よくわからなかった。子供の喉は狭かった。ヒューヒューと苦しそうに息をしていた。ずっと喉に舌を入れていると、子供は苦しそうにもがいた。段々小傘の唾液と子供の唾液が喉をふさいでいった。なんとか息をしようとすると胃がでんぐりがえって、胃の内容物を吐いた。小傘はちょっと酸っぱいと思ったが、その時の恐怖の味は格別だった。
 恐怖の味は甘酸っぱい。初恋に似た体験だった。
 小傘は恐怖の味を浴びるたび、力が強くなった。全身に妖力がめきめきとみなぎってきた。赤い瞳は人間をチラッと一瞥するだけで、恐怖に陥れ、精神を錯乱させた。長い舌はぬらぬらと奇妙に蠢き、幻惑し、人間を虜にした。
 舌を喉に入れる時は、長い舌をかまれないように、顎を力強く押さえた。念入りに念入りに押さえつけた。下顎に力がなくなるまで押さえつけると安心した。
 子供が必死で抵抗するのがとても可愛かった。綺麗なピンク色の喉を舌でつつき、たっぷり焦らして、ヴァージンを奪ってあげた。子供は喉を貫かれると失禁し、涙を流し、小傘は快感に包まれた。
 胃液と唾液で喉が詰まるとクライマックスが近づいた。
 息が止まって意識が消える瞬間に喉がぎゅーーっと閉まるのが好きだった。
 舌が狭い喉で締め付けられ、小傘は快感に打ち震えながら舌を一気に引き抜くのだ。
 子供を食べても食べても、まだまだお腹はいっぱいにならなかった。
 もっともっと質のいい恐怖が欲しかった。






 早苗は数日、事件が起こった近隣に聞き込みを開始した。数箇所の出現場所から推測するに、この山林が妖怪のねぐらであると確信にいう至った。
「ふふ、妖怪よ待ってなさい。すぐにこの東風谷早苗が成敗して差し上げますわ」
 小傘はおいしそうな匂いを感じていた。とても甘くて、クリーミーで、噛みごたえのある、例えようもないくらい美味の恐怖の匂いを。
 林の中に人影を認めた。絶対に逃がさないように、慎重に、慎重に、考えて近づいた。


 早苗は妖気を感じて振り返った。
「ばぁ~~~っ。驚け~」
「……?」
 目の前に現れたのはしなびた傘を持った妖怪だった。早苗は少し笑ってしまった。古くさいデザインの雨傘、恐怖を呼び起こすには程遠いと思われるほど、滑稽なとってつけたような目と長い舌。一体誰がこの時勢に恐怖を感じるのであろう。傘を持っているのは少女の姿をしていた。目の色が左と右で違っていた。あどけない顔で舌をちょこんと出した姿はむしろ可愛げだった。妖力が感じられるので、妖怪である事はわかったが、これが目当てのそれではないと思った。こんな弱そうな妖怪が事件とは無関係だと先入
感で信じきっていた。
 それにしてもこんなもので、この私を驚かそうとは、早苗は我慢できずに吹き出してしまった。
「あ、あはははっ。そんな時代錯誤の方法で……くくくっ」
「なんと、わちきが時代遅れともうすか――」
「わ、ち、き、ですって? あははっ。あなた馬鹿みたいですね」
 早苗はこの妖怪の古めかしい言葉使いに哀れみを覚えた。そこまで必死にキャラ作りをする妖怪はついぞ見たことがなかった。
「怖くないのかえ?」
「あーっははっ。もっもういいですから。そんなに笑わせないでください。はぁはぁ……で、あなた妖怪ですよね? なので退治します。私は今、あなたごときに構ってる暇はありませんので」
 早苗はお払い棒を持ち、何の躊躇もなく小傘に突撃しようとした。こんなちんけな妖怪など一撃で倒して見せる。その油断が普段なら決して解くことのない、体に張り巡らせた防御壁をもろいものにしていた。
 小傘は大きな傘でさっと顔を隠した。次に傘を上げた時には早苗は地にぐったり伏していた。顔の半分を占めるような赤い目が爛々と光り、早苗はその眼光を直視してしまったのである。

「……なっ……何を」
 早苗には何が起こったのかわからなかった。妖怪の赤い目玉が光ったとたん、頭がぐるぐると回り、立っていられなくなった。景色がぐちゃぐちゃになった。何色もの絵の具をぶちまけたような景色だった。妖怪の妖気が急に大きくなっていた。早苗は思わず恐怖してしまった。 
「ほほう汝(うぬ)もちゃんと怖がるではないか。よしよしちこうよれ。ほめてしんぜよう」
 小傘は珍妙な言葉を発し、早苗のそばに行った。
「くっ……この妖怪がっ」
 早苗はぶんと腕を振り回したが、むなしく空を切った。 
「おっとっと、御姉さんはちょっと強いかもしれないけど、私を怖がったからもうお仕舞いだよ。ほら見て?こんなに力が沸いてくるもの」
 ねっとりと涎がしたたる長くうねった舌が、早苗の周りをぐるぐるに囲んだ。
「あ……あ……」
 早苗は焦点の定まらない目で、軟体動物のように動く濡れた舌を見続けた。
「もっと怖がって……?御姉さん」
 早苗のだらしなく開いた口に、小傘の手が伸びた。
 ものすごい力だった。とても耐えられるものではなかった。顎がギシギシときしみ、激痛がはしった。
「んー、んーーー」
「ああおいしいわ御姉さん、もっとよもっと」
 早苗の恐怖の味は今までの誰よりもおいしかった。喉の奥は一体どんな素敵な出会いが待ってるんだろうと、恋する少女のようにわくわくした。
 ガコォンという音と共に早苗の両顎ははずされてしまった。  
「ぁ……」
「これでもう心配はいらないわね。御姉さんが抵抗しなくてよかったよ。あんまり暴れると私も手加減できないからね」
 小傘はそう言ってケタケタと無邪気な顔で笑った。

 早苗は弄ばれ、蹂躙された。
 小傘の舌が早苗の体全体をゆっくり撫で回した。胸にべったり舌が這い回った。アソコとお尻の穴も丹念に舐められた。
「ああとってもおいしいわ御姉さん。でも一番おいしいところは最後にとっておくのが私は好きなの」
 早苗は顔が涙でぐしゃぐしゃになった。なんとか抗おうとしたが無駄だった。
「さてと……」
 小傘の大きな目が早苗を見つめた。恐怖でいっぱいだが、撫ぜられて感じてしまっているのがくやしかった。
 小傘の顔が目の前に迫った。
「じゃあ御姉さんの初めて、いただきまぁ~~~す」
「――!!」
 舌が口内いっぱい詰められた。涎がとめどなく溢れていく。
 早苗の喉チンコに小傘の熱い舌が執拗に絡んだ。
「本当においしいわ御姉さん……力抜いて……ああいい顔よ。もっと恐怖してもっと怖がって、好きよ御姉さんとっても好きよ。甘いお汁が御姉さんからどんどんあふれてくるの。甘酸っぱい柑橘類の味だわ。普段いいものを食べてるのね。私も御姉さんの恐怖を食べたらもっと素敵になれると思うわ。御姉さん一気にいくわよ。力抜いてね……ほらっ!」
 小傘の熱くて長い舌が早苗の胃に侵入していった。いつもの子供もよりもたくさん入れた。早苗のおいしいお汁をたくさん味わいたかったからだ。ぬるぬるの舌が胃壁を何度もこすった。胃から腸の入り口にも舌が入った。早苗は息が絶え絶えになった。お腹が舌でいっぱいになったがまだ詰め込まれた。しだいに猛烈な吐き気が襲ってきた。黄色いしみが股間を濡らしていった。

 小傘は早苗の上で騎乗位で犯すように上下運動していた。
 早苗はたまらなくおいしかった。
 胃のこする場所で味が違った。
 四季折々のフルーツが踊り狂った。
 早苗が黄色い汁を吐いた。とても苦しそうだった。
 二人の顔が黄色にそまった。
 蜜柑の味がした。最高級のおいしさだった。
 熱いジュースがとめどなく流れた。
 二回目は少し紫の汁が飛び出した。
 ぶどうの味だった。恐怖が煮詰まっていた。
 三回目は真っ赤な汁があふれ出た。
 よくわからない味がした。
 喉が一気に締まった。小傘は舌をすごい勢いで胃から掃き出し、全身で快感を受け止めた。
 
 





 早苗は山林の中で通りすがりの人間に発見された。ひどいものだった。両顎ははずされ脱糞、失禁していた。体全体が粘液で覆われ、さらに吐瀉物まみれだった。すぐに永遠亭まで運ばれたので、何とか一命はとりとめたが、早苗の心に手痛い致命症を残した。どんな時でも恐怖にとらわれて発狂し、手がつけられなくなった。早く吸って吸い出してとうわごとのように何度もつぶやいた。八意永琳にも処置のしようがなかった。治療方針は時間経過による自然治療という消極的なものだった。
 守矢の巫女が蹂躙されたという事実は八坂神奈子の力によって秘密裏に処理された。神奈子は激昂した。妖怪征伐をたのんだ本人、上白沢慧音もろとも人里と周囲の山林を焼き尽くし、破壊し、妖怪をあぶりだそうという勢いだった。洩矢諏訪子の必死の説得と八雲紫らが間に入り、何とか事なきを得た。そして妖怪征伐は博麗霊夢に任されることとなった。
 後日、人里では五人が殺された。子供だけでなく大の大人も殺されていた。牙や爪のようなもので喉や腹を引き裂かれ、内臓をぐちゃぐちゃにされていた。また、全身至るところに粘液質の物質が付着していた。これは検査により早苗の体に付着していたものと同種であると結論づけられた。








 霊夢は妖怪退治を八雲紫から任かされていた。あの生意気な巫女、早苗が失敗したせいだと思った。全く、何で私がこんな尻拭いをしなければいけないのと思った。
 準備も程ほどに、さぁ今日も調査しようという時に新聞記者の射命丸が現れた。
「やぁお早うございます。霊夢さん。もうお出かけですか?」
「最近忙しいよの。勧誘なら後にしてよね」
「あ、あの……守矢の巫女の事なのですが……」
「ああ知ってるわよ。こっぴどくやられたそうじゃない。いい気味ね。妖怪を舐めてるからああなるのよ。あの子は打ち上げ花火をポンポン焚いてれば、勝手に妖怪が逃げていくと思ってるのよ。自業自得よ、今回の事はいい薬になったでしょう」
「霊夢さんそれは言いすぎ――」
「別に、当たり前の事よ。それに魔理沙が言ってたけど、今回の早苗の件、あなたの新聞に載ってないそうじゃない。他人に厳しく身内に甘い、あなた達は本当にゴミだわ」
「いいえ東風谷様の人権と名誉ためで……」
「ふん嘘ばっかりねだから嫌いなのよ、あんた達は。仮に私が先に妖怪退治に向かって尻に線香花火百本さされて御柱にくくりつけられて死んでたら、あんたは確実にそれを面白おかしく書きたてたでしょうね。」
「いえ……博麗の巫女にそんなことは」
「はん、馬鹿ね。博麗の巫女なんて飾りよカ・ザ・リ。あのババァは外来を行き来できるのよ。私の存在意義なんて別にないのよ。ただあのババァの見栄はりのために、たいそうな権威もった振りしてるだけだわ。全ては偶像よぐーぞー。」
 霊夢は腹に溜まっていたことを吐き出しだ。文が黙っているので霊夢はすぐに飛び立とうとした。
「今回の敵はかなり危険だわ。スクープとろうとしてついて来ないことね。死んでも責任とれないから」
 霊夢は文を置き去りにして、博麗神社を後にした。




 霊夢は昨日、山林全体に妖怪探知用のお札を木に貼り付けていた。こうしておけば妖気を察知にして、妖怪の住処を暴きだすことができるのである。
「この辺が特に反応が強いわね」
 貼り付けたお札は警戒を促すように青白く光っていた。地面にはまだ食べてられて間もないと思われる動物の骨が散らかっていた。草や木の枝が激しく掻き分けられた後があった。この先に妖怪がいるはずだと霊夢は確信した。
 


 多々良小傘は早苗を食べた後満腹になった。満腹になりすぎて動けなかった。現人神の恐怖のパワーは小傘の許容範囲を超えていた。頭が痛くなってゆっくりと眠った。
 小傘は生まれ変わった。
 赤い目玉は飛び出しそうなくらい肥大化して、四方八方ににらみを利かせることができた。人間が一度その眼光を受けてしまえば、そのまま息の根を止められてしまう程の、恐怖を与えることができた。
 耳まで裂けた口からは鋭い牙が鮫のように何本も生えてきた。
 もう直接的な恐怖が欲しかった。
 喉とはらわたを切り裂くとどくどくと恐怖が流れた。
 頭を臓物に突っ込んでじゅるじゅると恐怖をすすった。
 緑の巫女はとてもおいしかった。
 またあんなおいしい恐怖を味わいたかった。


「そこにいるんでしょう?早く出てきない。私は気が短いのよ」
 霊夢は妖怪の所在をすぐに発見できた。妖怪は古びた傘をさしていた。しぼんだ傘は何故か泣いているように思えた。
 妖気が辺りにあふれ、草木がチリチリと音をたて、霊夢と小傘以外は誰もいないと思われるような静寂が場を支配する。
「さぁ妖怪さん観念しなさい。命乞いぐらい聞いてあげるわよ」
「うらめしや――」
「ふぅん何が恨めしいかしら?」
「うらめしや――――」
 小傘の顔を隠していた傘がゆっくりと持ち上がった。おおよそ、普通の容姿ではなかった。綺麗に耳元まで裂けた口からは肉食獣ような鋭い歯が、奥の真っ黒な空洞からは三股に分かれた長い舌が、少しでも触れれば溶けてしまいそうな、白い粘液がどろりと滴り落ちていた。顔の上半分を占める大きな目玉は、白目部分が全て血走り、赤い瞳の色と同化したように滲んでいた。
 霊夢はあまりの醜悪さに少し尻込みをしたが、すぐに取りなして言った。
「全く、守矢の巫女も余計な事をしてくれたわね。こいつは明らかに成長してるじゃない。だから妖怪はタチが悪いのよ。でも安心しなさい。この私がすぐに楽にしてあげるわ」
 次の瞬間、傘がポーンと舞い上がったと思うと、小傘は猿のような俊敏な動きで霊夢に飛び掛ってきた。霊夢はその突進を、ヒラリと後ろに宙返りしてかわし、ストンと軽やかに着地した。
「そんな動きじゃ私は捕まえられないわ。さぁ鬼ごっこの時間よ」

 霊夢は事前に罠を仕掛けていた。複数の木に結界用の札を貼り、そこに妖怪を落とし込もうという作戦だ。
「やれやれ、前もって準備しておいてよかったわ。まさかあんな化け物が出てくるとはね。幻想郷もぶっそうになったものね」
 小傘は狙い通りに霊夢の後を追ってきている。結界をはった地点まではもうすぐだ。
「ギヤァァァアアッ!!」
 小傘の叫び声と共に火花が散り、強力な力が四肢の自由を奪った。
「ググッ……グッ!」
「ふぅこれで終わりね。やれやれ」
 霊夢はありったけの霊力をこめて近づいた。生かして逃がすつもりはなかった。ここまで凶悪に進化していては必ず人を襲うであろうのだから。


 射命丸文は霊夢の後をひそかに追っていた。烏天狗の目は非常に優れていた。よって霊夢に気づかれずに追跡するなど造作も無い事であったのである。
「ふっふふふ。あれぐらいで私が退くとお思いですか?真のジャーナリストはいつでも真剣に現場に立ち会うものなのですよ」
 文は霊夢が小傘を発見したのを、遠目に確認した。
「おっと逃げるんですか。一体どういうつもりなんでしょう?」
 しばらく山林を駆け回った後、ようやく文は合点がいった。
「ははぁ結界に誘い込んでいたのですか。さすがは博麗の巫女様です」
 文は小傘が捕まったので安心してしまった。そしてカメラで決定的瞬間を撮ろうと不用意に距離を詰めてしまった。
 霊夢と這いつくばった妖怪が対峙しているのがわかる。
 カメラを構えてファインダーを覗く。
 ふいに小傘の大きな目が文の瞳を貫いた。
 射命丸文は恐怖してしまった。


 霊夢が小傘に近づいた途端、急に妖気が拡大するのを感じた。
「無駄よ。この結界はそう簡単には破れないわ。あきらめなさい」
 小傘は結界から必死に抜け出そうとしていた。
「こいつ妖気がどんどん増しているわ、どうして――」
 霊夢は早くとどめをさそうと思った。渾身の力を込めて、巫女棒を小傘の頭部めがけて振り下ろした。が、小傘は一瞬早く自らの腕を引きちぎり、結界から抜け出していた。
 大きな赤く醜悪な目は先ほどから一点を見つめていた。
 その先には射命丸文がいた。

 腕を引きちぎった小傘の身が、ぐるっと空中を翻ったと思うと、ものすごい速さで木を蹴り、一瞬で文の柔らかい喉へと噛み付いていた。 
 「あーっぁあああ……」
 文は動けなかった。大きな目玉に睨まれ恐怖で足がふるえ、失禁した。
 喉元から綺麗な血がピューッと飛び出した。傷口から三枚の舌がぐにぐにと粘膜を犯した。胃から腸の奥まで丹念に犯された。
 文はあまりの恐怖のせいで痛みはほとんど感じなかった。薄れゆく意識の中、内臓をえぐられ、弄ばれ、言葉にしようのない恍惚状態の中で絶命した。

 霊夢は文が弄ばれて殺されるのを見て、逃げようと思ったが、足が動かなかった。
 文の血しぶきで前よりも赤く染まった目が霊夢をとらえた。
 もう抗えないぐらい小傘の力は強くなっていた。 
 霊夢は絶望し、恐怖した。
 どうしてこんなことに――
 そう思う間も無く霊夢の意識は永遠に途切れた。



 小傘は文を弄んだ後、霊夢の頭めがけて飛びかかった。顔全体を大きな口で飲み込み、尖った歯で一気に首から引きちぎった。
 霊夢の溢れ出る血を飲みながらやっと、本当の正解にたどりつけた事を喜んだ。
 恐怖は最初からここにあった――
 つまり恐怖は喉から下ではなく上にあった。
 小傘は霊夢の頭蓋骨をガリガリと噛み砕いた。
 ドロリとした薄茶色のようなウニのようなもの流れ落ちた。
 チュルチュルチュルと吸ってみた。
 体に力がみなぎってきた。
 今までとは全然違う充実感があった。
 恐怖で固まった脳の味は格別だった。
 これからの楽しみが増えたと思った。



 


 

 永遠亭の地下にある隔離病棟に、東風谷早苗は収容されていた。ひどく暴れるのでしかたがなかった。苦しい、吸ってといいながら、口の奥に手を突っ込んで吐こうとするので両手で鎖にかけ、壁につないだ。
「ああーーー妖怪様ぁ妖怪様ぁ、苦しいです、怖いああーー怖い怖い怖い。妖怪様、早苗は体に変なものが溜まって溜まってーー狂いそうです。早くその綺麗な美しい舌で吸ってくださいませ。変なお汁が体の至るところから沸いて沸いてたまらないのです。妖怪様ぁ早苗をお救いください。早く吸って吸って吸い尽くしてくださいませ。妖怪様大好きです。今一度早苗の喉に手をつっこんで、胃袋裏返して腸を引きずり出して隅から隅までしゃぶりつくしてくださいませ。ああーーああああああー東風谷早苗は親愛なるメス豚です。あなた様の犬です。ああー怖い怖い目玉をくりぬいて食べてくださいませ。ああ目から鼻から耳から舐めてくださいませ。早苗の穴という穴を全て愛してくださいませ妖怪様。ああああーかゆいかゆい早く吸って吸って吸ってくださいませ。ああー早く来てくださいませ。ああー妖怪様ぁ妖怪様ぁーーーー」
 洩矢諏訪子は永遠亭にしのびこみ、早苗の病室の鍵を盗んだ。
 諏訪子は早苗がこんな目にあったのも、自分のせいだと思って後悔した。何が出来るわけでもないが早苗のそばにいたいと思った。

 早苗は完全に狂っていた。
 鈍い金属音とともに人影が現れるのを認めた。
「ああああー妖怪様ついに来てくれたのですね。早苗はうれしゅうございます。さぁ妖怪様早く吸ってくださいませ。あああー妖怪様ぁ妖怪様早く早く――」

 諏訪子は早苗が幻覚を見ていると思った。
 近づいてなだめようとした途端、唇に噛み付かれた。
 早苗は口をこじあけ、諏訪子の舌の根元に噛み付き、ぐっと吸引し、飲み込もうとした。
 諏訪子の舌はまるで蛙のように伸び、早苗の胃におさまり、あまりに引っ張ったものだからプチンと切れてしまった。
 早苗は切れた舌がそのまま喉に詰まり、息が出来なくなって死んでしまった。
 洩矢諏訪子は神である。
 切れた舌を再生することもなく、そのまま自ら意識を閉じようと思った。 
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