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小箱の小話
東方二次小説が多目。 エログロ、ホラーミステリ洗脳色仕掛け等。
工場見学・北風と太陽とプレイボーイ
  工場見学


 幻想郷から、人間が表舞台から消えてから数百年の時が過ぎていた。今や人間とは豚や牛や鶏などの、家畜同然の扱いでしかない。人間は奴隷、食料、家畜と余す事無くその身を妖怪達に捧げられる。特に人間の体内から一週間おきに生み出される尻子玉は非常な珍身となっており、上流妖怪の間では、この尻子玉を適度に嗜む事が一種のパロメーターとなっていた。
 地底へ潜った博麗の巫女が死んだ事は、幻想郷にとって大打撃だった。地底から沸き上がる大量の妖怪達は地上を埋め尽くし、力なき者――人間から狩り始めた。どうしようもない事態に幻想郷の賢者達はこの地を見捨てた。その後地上の有力妖怪達がなんとか地底妖怪を押しとどめ、再び地底に封印したがこの戦いは幻想郷に深い爪痕を残す結果となった。
  人間の数は激減しており、もう人間に組する妖怪もあらかた消え去っていたので、妖怪の主張に異を唱える者はいなかった。こうして人間は全て妖怪の支配におかれる事となってしまったのである。




「大ちゃん楽しみだなー工場見学」
「そうねチルノちゃん」
 大妖精は友達のチルノにそう返した。
 チルノと大妖精は二人で湖近くの工場に来ていた。
 近年の幻想郷の近代化は目覚しく、チルノ達が住む場所にまでその手は伸びていた。
 なんでも興味津々のチルノにとってはあの大きな建物は不思議な存在でどうしても中に入ってみたかったのである。


「やぁよく来てくれたね。君達」
「今日はよろしくお願いします。にとりさん」
「おーにとり、よろしくな!」
 河童の河城にとりが門で出迎えてくれた。現在は住み慣れた妖怪の山から転勤してここの工場長をしているらしい。ニコニコと愛想のよい笑顔を浮かべながら二人を招きいれた。
「おーおー、すごいなー、広いなー」
「どうだい? どこから見学しようか? ここには色々な施設があるからね」
「ええと、にとりさんにお任せします」
 キョロキョロしながら感嘆しているチルノに代わって大妖精が答えた。
「そうか、それじゃとりあえずはぐるっと一回りしてみようか」

 
 ベルトコンベアの音だけが響きわたるこの部屋では、ベルトの上を滑走する玩具のような物に作業を加えていた。一人一人が一言もしゃべる事なく黙々と、一定の間隔で途切れる事なく作業を遂行していた。
「あれ……? もしかしてこの方達は人間なんですか?」
「ああ、そうだね、正真正銘の人間さ。そうか君達はずっと湖にいるから見かける機会もないんだね。人間は別に絶滅したわけではないんだよ。元々手先は器用なんだしこういった仕事には向いてるんだ。ただし戦乱以前のように地上に居住するなんて事はありえなくなってしまったけどね」 
 地上が戦乱に見舞われた時、妖精達は意識を森や水に隠し、ほとぼりが冷めるのを待った。無機質的な意識の集合体とも言える妖精にとっては、積極的に関わろうとしなければ回避は余裕だった。意識の根源である水や森が直接破壊されてしまえば、妖精の存在そのものが消滅してしまうが、人間が先に犠牲になってくれたおかげで妖精の安全は確保された。
 大妖精にとって人間を見るのはとても久しぶりの事だった。一体最後に見たのはいつだったのか思い出せない。
 チルノはつまらなそうな目で単純作業に明け暮れる人間を見ていた。
「なーなーにとり。こいつらつまんなくて投げ出したりしないのか? 見てるだけで眠くなってきたぞ」
「うーん彼らにとってはつまらないという感情はないんだよ。だから飽きる事もない。もちろん腹が減ってエネルギー切れになれば動かないがね。それまでは決して効率を落とさずに作業できるんだ。何故かと言われても――そういうふうにできているとしか答えられないね」
「んん? あたいよくわかんなくなってきた」
 チルノとにとりが会話している間に、大妖精はこのライン作業をこなす人間達を一人一人見ていた。
 男と女は半数ぐらいで真っ白な肌、生気の無い目つき、痩せた筋肉。
 この閉鎖空間で一生作業をこなす義務を与えられた人間の無情感たちこめる空気が、大妖精にはひどく空虚に感じられた。
 しかし何かがおかしかった。
 見れば見るほど感じる違和感が大妖精を襲った。
「う~ん……?」
 大妖精は思わず首をひねって声に出してしまった。
「どうしたんだい? 何か変な事でもあった?」
 その様子を見たにとりが聞いてきた。
「え、えーと、あの……何かおかしいと思ったんです。何かはわからないんですけど」
「ふーん、ベルトの速度も丁度だし作業は順調にこなしているよ。ここでおかしい事っていったら作業が滞っちゃうぐらいだね。求めるものはそれしか無いと言えば極論だけど、それ以外の事は非常に些細で意味を成さないんだ。ここはそういう場所なんだよ」
 にとりが遠い目で寂しげに話した。少なくとも大妖精にはそう見えた。
「どーした大ちゃん? どーした?」
「チルノちゃんもこの人達見て何かおかしいと感じない?」
「んー別に、みんな普通だな、んーどっちかって言うと普通すぎる」
「そ、そうね……」
 大妖精もチルノ同様にそう思った。しかし何かが心引っかかってたまらなかった。
「もう飽きたかな? そろそろ他へ行こうか」
 にとりが促したので大妖精の思考は止まってしまった。




「わ……何ですかここ?」
 人間が一人一人檻のような個室に入っている。人間は衣服を何もつけていなかったので、大妖精は思わず手で目を覆ってしまった。生殖活動をしない妖精にとっては人間の性器が丸出しになっている状態は、恥ずかしさというより嫌悪感の感情が優った。
「おー、こいつ何かブラブラしてるぞ、これ何だ? にとり?」
「ふふっ。何だと思う? 妖精には縁がないかなぁ」
「チ、チルノちゃん駄目だって」
 チルノが人間の性器に触ろうとするので大妖精は手をつかんで止めてしまった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ、ここはとても清潔にしてあるしね。さてそろそろ始めてみようか。他では見られない貴重な体験ができるんだよ。君達は幸せ者だな」
 そう言うとにとりは細長いチューブのような物を持ってきた。何やら先っぽにも奇妙な形状の突起物があり、用途が全く推測できなかった。
「これは電動式尻子玉搾取器と言うんだ。これで人間の体内にできた尻子玉を取り出す事ができる」
「しりこだま? 何だそれ」
 チルノはきょとんとした顔で言った。
「幻想郷三大珍味の一つさ。業界人のパーティなんかで出される本当に貴重な食べ物なんだよ。人間の体内で
しか生成できないし、それも一週間に一回に2、3粒しか作らないからとても高価な値段がついている。特にここでは生きのいい人間の尻子玉を採取しているから特級品なんだよ」
 にとりはそう言って薄いゴム手袋をはめ、準備を始めた。
「じゃあ今から始めるからそこで見ててよ」
 にとりは二人が見ている前でいきなり人間に後ろから抱きついた。にとりの作業服の上からでもわかる大き目のおっぱいが、少年の背中でぐにゃりと形を変えた。左手は性器をつかんで包み込むようにゆっくりと
した動きでさすっている。
「ほ~らほらいい子だ、よしよし」
 人間はまだあどけない顔立ちの残る15歳ぐらいの少年だった。にとりに性器をまさぐられてか細い声を漏らしている。
「何だ? ブラブラがカチンコチンになっておっ立ってきたぞ!」
 チルノが驚いて大きな声を出した。
「これはね人間が快感を感じている証なんだ。採取時にこうやってご褒美を与えてやるとね、質のいい尻子玉を継続して提供してくれるのさ」
 にとりの手はさらに少年のお尻の穴へと伸びているようだ。ローションをたっぷり指に絡めて、肛門へとぐりぐりとねじ込んでいく。
「大丈夫、全然怖くなんてないからな。お姉さんに任せておけ」
 にとりは少年に励ましの言葉をささやきながら中指を押し進めて行く。淫靡な音が場を支配し、少年の歓喜と恐怖とが混じりあった声だけが印象的に聞こえている。
「ほらすっぽり入ったよ。君達も見てごらん」
 河童の長い指が第2関節まで少年の肛門に納まっていた。少年は涙と口の端から涎をたらしてこの行為に身を委ねていた。
「へぇ人間はここにも穴があるんだな。あたい勉強になったよ。でもなんで股の下に穴があるんだろう?」
「それはねチルノ、人間に限らずこの世の生物全ては食べ物を消化し、排泄しなければならない。ここはそのための穴なのさ。ああもちろん事前に排泄行為は済ませてあるから、採取中に大惨事なんて事はないがね」
「ふ~~ん、何か面倒くさそーだな」
 

 しばらく作業をした後、にとりは先ほど見せた搾取器を持って来た。
「肛門を十分柔らかくしてリラックスさせたらいよいよコイツの出番だ。尻子玉の温床は体内のかなり奥だからね。十二分にほぐれてないと途中でつっかえて人間は痛みで転げ回ってしまう。とにかく安心させてやる事が大事なんだ。母が子をいたわるように、恋人が相手を抱きしめるように接してやるのがコツだね」
 にとりが落ち着いた声で説明した。
「ほー、そーなんだな。こいつすごく気持ちよさそうだもんなー」
 チルノが感嘆したような声で言う。
 大妖精は少年をチラリと見た。性器も先ほどから肥大化したままで、前と後ろをにとりに掌握されて、明らかに喜びを露わにしていた。にとりは人間の扱いに慣れているのであろう。ほんの数分で人間が骨抜きになってしまった。性器の先からは薄く透明な液体が一筋滴り落ちていた。
 搾取器にスイッチが入り、ブルブルと振動させながら少年の肛門から腸内へと突き進んでいく。
「これは高性能だからほとんど自動で尻子玉を的確に発見し、採取するんだ。痛みを感じる事なくあっという間に終わってしまう。ほらもう見つけたみたいだ。こんなに激しく動いている」 
 搾取器の振動が一段と強まったと思うと、にとりの少年の性器をこする手が速くなった。少年は快感に打ち震えていた。
「お、おいこいつのコチコチがさっきより膨らんできたぞ。一体どうなってるんだ?」
 にとりが搾取器を抜き出すと同時に、少年の真っ赤に膨らんだ性器から、白い液体が放物線上にドクンドクンと脈動しながら勢いよく放出された。その結果、間近でそれを見ようとしたチルノの顔面に濃く白濁した液体がかかってしまった。
「うわっ!!」
「だ、大丈夫チルノちゃん?」
「おっとごめん驚かせちゃったね」
 にとりがタオルでチルノの顔を拭く。
「何だこれ? ヌルヌルして変な味と匂いだぞ」
「大丈夫別に害はないから。これは神様が人間に与えてくれた神秘の結晶なのさ」
「へーそーなんだなー。ふーん、そーかー」
 チルノは全て納得したかのような口ぶりで言った。 
「ふぅ……とまぁこのようにして採取されたのがこの尻子玉になるね」
 にとりは搾取器の先についた二つの小さな石ころのような欠片を手でつまみ出して言った。
「本当に小さい物なんですね。どうして人間の体内にできるんでしょう?」
「ひぇ~ただの石ころじゃんそれ」
「う~ん詳しくはまだ解明されていないんだけど、どうやら人間の中で分泌されるある物質が凝縮された物と考えられているね。我ら河童の祖先は古くから盟友である人間の尻子玉のお世話になってきたけど、近年では妖怪でも嗜む者が増えてきている。時代の流れは価値観も風習も変えてしまうのさ。盟友には悪いがこうやって大量生産体制に敷かれるのも、時代が求めているからしかたの無いことなんだね」
 にとりはしんみりした調子で言った。
「そーか、時代の流れか。でもあたい達は全然変わらないよね。ねぇ大ちゃん?」
「ええそうねチルノちゃん」
 大妖精は自分に言い聞かすように言った。
「妖精も幻想郷で最も神秘に満ちて不可思議な存在だからね。ところで……君達今した事実際に体験してみ
たくないかい? せっかく来たんだしやっていきなよ」
 にとりは悪びれのないニコニコとした笑顔のままそう言った。
「え、えーと……」
「あたいやってみたい! 面白そう!」
 大妖精が言いよどんでいるとチルノが元気よく答えた。
「そうかそうか。じゃあ男の子と女の子どっちがいい?」
「さっきのブラブラあるのは男か?それならそっちがいい」
「よしわかった。とびきりの生きのいい子を紹介するよ」


 別の檻の中へ三人は移動していた。
 先ほどよりも幼い少年が行儀よく座っていた。
「じゃあチルノ、まずはリラックスさせるところから始めてみようか」
「よし! あたいの手にかかれば人間なんてイチコロね!」
 チルノは勢い勇んで少年に後ろから抱きつき、性器を手で撫でさすったり、耳元へ冷たい息を吹きかけたりした。
「あれ? なんだこいつ、フニャフニャのままだぞ。にとりの真似をしてみたのにおかしいなぁ」
 少年はチルノの冷気でも震えていた。リラックスどころでは無かったのである。
「あはは。どうやらこの人間はチルノが好みじゃないみたいだね。君はどう? やってみないかい?」
 にとりは大妖精の方を向いて言った。
「ええと……あの……」
「大ちゃんあの人間手ごわいぞ。あたいの仇を討つと思って、ほらだーいちゃん! だーいちゃん!」
 チルノが囃したてるので大妖精はしかたなく少年の後ろに座った。
 大妖精は間近で性器を観察してみた。先ほどの少年よりも形は小さく、やや膨らんだ先端部分に半分程ひっかかるように皮がかむっていた。
「ほら大ちゃん早くはーやくっ」
 大妖精は意を決して少年の性器へと手を伸ばした。ぐにゃぐにゃした感触でこれがあのように固くなるとはまるで思えなかった。
「そうそう上手上手、そうやってゆっくり優しく撫でると人間は落ちつくんだ。……ほら膨らんできたよ」
 少年の性器は大妖精の手の中で充血し、真っ赤になり膨張した。亀頭に覆いかぶさっていた皮が膨張の影響で
ミリミリと音をたててめくれていく。
「きゃっ、ああん……」
 大妖精の手の中で性器が脈打ち鎌首を持ち上げて固くなったので、思わず声が出てしまった。
「大ちゃんいけえーー! そこだよそこ!」
 チルノは場違いな応援をしている。
 大妖精は手に収まりきらないくらい性器が膨らんでしまい、恥ずかしくなって手を離してしまった。
「あぁ……ふぅ……怖かった」
「えー大ちゃん! そんなぁー」
「ふふっ。やっぱり妖精には難しかったみたいだね。ようしそろそろ次行こうか」


 にとりに次に案内された部屋は圧巻だった。狭い小部屋に20人ぐらいの男女がひしめき合っていたのだ。皆二人一組になったり三人組になったりして、思い思いの相手と口つけをして抱き合ったり、後ろから後背位で性行にいそしんでいたりした。
 人間達の喘ぎ声が否応無しに耳に入るこの部屋で、大妖精は気分が悪くなってしまった。
「うぁー、何だこいつら、プロレスでも練習してんのか?」
「ここは繁殖場なんだよ。人間は中々増えないのが欠点だね。まぁそれは長らく比較的安全な暮らしをしてきたのと、体の複雑な構造がそうさせているのかもしれないけど。ほら見てごらん、あそこの二人を。性器を大きくさせて男が女の尻に乗っかっているよね。これが人間の繁殖行為であり、神秘的な営みなんだ。しかしその行為を他の生物が管理するなんてあっていい事なんだろうか? ましてや人間は河童の盟友だったからね。私はその事についていつも胸を痛めているんだよ。ただそれが、時代の流れと言うのなら妥協するしかないのかもしれないけどね」
「おーっ、すげぇ! おー、おおーあれがこうなってあれがこうなって……」
 チルノは興味津々で交わりを凝視していた。
 チルノが感動の雄たけびをあげている間に、大妖精は先にこの部屋から退出していた。どうしても男女の交わりを直視できなかったのだ。


「大ちゃんどーだ? 大丈夫か?」
 チルノがさっきの部屋から戻ってきてそう言った。
「えっええ、チルノちゃんもう平気よ」
「そうかそれはよかった。さて……後残りの施設は屠殺場ぐらいなんだけどどうだい? 行くかい?」
「あたいは見たいな。お願い!」
 大妖精は屠殺という言葉にいやな感じを受けたので、休憩部屋でチルノが戻るのを待つ事にした。
 ぼーっとして無言の時を過ごす。
 しばらくしてチルノが戻ってきた。顔を真っ赤にさせて目を腫らしながらポロポロ涙をこぼしている。よっぽど怖い目にあったに違いない。大妖精は自分は行かなくてよかったと思った。
「う~~~っっ……うう~~~~」
「よしよし、怖かったかい? ちょっと刺激が強すぎたかね」
 まだ嗚咽を漏らして泣きじゃくっているチルノをにとりがなだめている。
「あ、大ちゃん……ヒック、ヒック……」
 そう言うとチルノは大妖精にいきなり抱きついてきた。
「ひ~~~~~~っ。ひ~~~~~っ」
「チ、チルノちゃん……」
「怖がらせて悪かったね。さぁそろそろお別れの時間だね。門まで送るよ」


「今日はどうもありがとうございました、にとりさん」
「……グス……にとり、ありがとうな!」
「いえいえこちらこそどう致しまして」
 まだチルノはぐずっている。
 二人はにとりにお礼を言い、工場から立ち去った。
「大ちゃん楽しかった?」
「ええ楽しかったわよ」
「本当に?」
「ええ本当に」
「そうかよかった! よかった!」
 大妖精はさっきまであれほど泣いていたチルノが元気になったのでほっとした。




 大妖精は違和感の正体を繁殖場ではっきり理解できた。一人一人を見比べてみると中々わからないが近くで突き合わせてみるとはっきりわかった。
 工場にいる人間は全て同じ顔だった。男も女も少々の体格の違いはあれど基本パーツは全て類似していた。
 あのライン作業部屋で死んだ魚を目している人間の顔が思い浮かんだ。

 ――あの人間達はあそこで生まれあそこで一生を終えるのね

 この広い湖と自然の中で自由に存在している大妖精やチルノ達にとっては、あの人間の一生は全く理解できずに物悲しい気持ちになるのだった。
 大妖精にはどうしてあの人間達が皆同じ顔をしているかはわからない。
 しかし、遠い記憶の中にあの顔の似ている人物をかすかに発見した。  
 あれはそう、この湖が赤い霧に染まった日、白黒の服を着てほうきに跨って、湖上をかろやかに飛んだ少女、その顔によく似ていた。
「どーした大ちゃん? ぼけーっと湖見て?」
 チルノはこの事実に気づくはずはない。気づく必要もないだろう。
「……誰か飛んでると思ってね。えへへ」
「む~~何か変だなぁ大ちゃん」
 大妖精はくすくすと優しく笑いをかみしめた。





「ええ、そうですか、愛玩用016-398型の運行は順調ですか。それは何よりです。ええ、はい、こちらの生産工程も急ピッチで進めております。ええ、ええ……」
 またいくつかの月日が流れていた。河城にとりは工場長として猫の手も借りたい程の多忙な日々を送っていた。
「にとり工場長、新型化粧品のサンプルができましたので、少し見てもらいたいのですが……」
 部下の河童がにとりを呼んだ。
「ああわかった、すぐ行こう」


 小型の容器になみなみと入っている液体。
 今や幻想郷では美容ブームが真っ盛りである。従って保湿、UVケアと肌に良い物はなんでも取り入れるのが主流となっている。よってその需要は年々うなぎ上りに上昇して、新しい化粧品の開発が追いつかないぐらいである。
 今回の新商品の化粧水の売り文句はこれだ。

 ――赤子のような若々しいプルプルのお肌。天然自然素材の充実感

 にとりは容器から液体から手に取りさっと馴染ませた。
 手につけただけでも隅々まで潤いが浸透するのがよくわかる。
 にとりはこの商品が必ず大ヒットすると確信していた。
 容器を回してラベルに書かれている文字を目に写す。




 商品名     妖精の涙――





地霊殿演劇 

 北風と太陽とプレイボーイ



 ごうごうごう。ただっぴろい延々と続く並木道を、北風が通り過ぎていきます。
「ごうごう。ひゅーぴゅるるるる。私は北風。どこからどう見ても北風でございます。この風で人間様の服を吹き飛ばして脱がせるのが大好きなのでございます。おおなんて私は悪い北風。おっと、さっそく人間様がやってきやがりました。しかも女です。華奢で今にも倒れそう――この寒空の中でなんてみすぼらしい格好。脛も太腿もむき出しじゃないですか。ごうごう。これはいけない。この女に北風の恐ろしさを教えてやらなくては。ごうごうごうごう」
 北風はその女に歩み寄りました。見れば見るほど細い骨と皮だけの女です。しかも死んだように色白。今も切なげな顔で、身を切る風を正面に受けながらゆっくりと歩を進めています。その姿はこの世の全ての不幸を背負ったように、儚げでもあり繊細でもありました。
「これこれそこの女。私は北風。さぁ有無を言わさず服を脱がせてご覧にいれます。ごうごうごうごーごごごう」
 北風は女に近づいたと思うと、そのむき出しの脚目掛けて、切れ味鋭い息を吹きかけました。
「あーれー何をするのですあなた。いけませんいけません」
 女は必死で短いスカートを押さえました。
「こら抵抗してはいけません。それ脱ぎなさい脱ぎなさい」
「いやです私。こんな公衆の面前で。いや、いやですわ」
「何を言うか。その脚は脱がせろと言っている。それごうごうごう」
「いやーやめてーだれかー」
 押しては返す攻防が数分続きました。北風は女が直ぐに音をあげると思っていました。しかし中々しぶとい。下が駄目なら上から前から後ろから。やたらめったらに風を吹き付けて服を脱がせようとします。
 しかし脱がせようとすればするほど、女は両手で服をぎゅうと握り締めて固くなってしまうのです。北風はほとほと困り果ててしまいました。
「なんとまぁ呆れた女だ。これは困ったぞ。このままでは北風の名がすたるではないか。ごうごう、ごご、ごっごうごう」
 北風はひょろ長い腕を組んで考え込みました。
 どうしたらこの困った女の服を脱がせられるか。うんうんと唸って考えます。
「うにゅ? やぁどうしたんだい北風さん?」
 突然真上から声が聞こえました。北風の友達の太陽です。太陽は雲の隙間からゆっくりと北風の前に下りてきました。
「それがね、太陽さん。困ったことがあるんだよ」
 北風は今までのことを説明しました。
「ふんふん。へーぇ」
 太陽は丸くて愛嬌のある顔です。とても大らかですが、三歩あるけば何でも忘れてもしまうのが玉に瑕です。
「ね? 困った女だろう? どうしたら手際よく服を脱がせることができるのかね?」
「うにゅ……。それでは私が……私が……私が……」
「(私が脱がせてご覧にいれましょうだ……お空) 太陽さん? どうしたんだいもごもごして? どこか体調でも悪いのかい?」
「ううん。いや。それでは私が脱いで差し上げましょう! ……うにゅ?」
「た、太陽さん! さぁあの生意気な女にあなたの光を当ててあげるのです。それこそ日射病になってへたばるくらいにね」
「うんわかったー」
 色々ありまして、太陽は女の服を脱がせることにしました。太陽ですから熱いです。熱ければ涼しくなろうと思って服を脱ぐ。至極自然な流れに思えます。
「そーれ!」
 太陽は胸に両手を当てました。みるみる内に辺りにゆらゆらと陽炎が立ち昇ります。周囲の温度は瞬く間に上昇しているのです。
 これではさすがの女も脱がざるを得ないでしょう。しかし現実は違いました。女は汗一つかかずにケロッとした表情で歩いているのです。これには二人も目をビー玉のように丸くして驚きました。
「脱ぎませんね太陽さん」
「うん北風さん。それもう一度。えいやぁ」
 太陽は光り輝く右腕をなぎ払いました。灼熱の火炎が迸ると思われるほどの高熱。一つ間違えば大火傷間違いなしです。
「ふーんふふんふん。さっきから何か騒がしいわね」
 なんということでしょう。女はこの高温地獄の中でも平然としています。これに太陽は面食らってしまいました。仰向けにひっくり返って仰天の表情です。
「うわぁ。私の熱をものともしないなんて」
「太陽さん、私にはわかったよ。何故あの女が素面でいられるかをね。いや実に簡単なことだったよ」
 北風は急にきりりとして言いました。
「どうしてなの北風さん」
「あの女は低体温だ。だからどんなに熱くても服を脱がないのさ」
「なるほどそうだったのか」
 二人はそれで納得してしまいました。そうとも思わなければ合点がいかないからです。
 女は並木道をずんずん歩いていきます。北風と太陽はどうにもくやしくてたまりませんでした。こんな細い女一人の服脱がせられないなんて。彼らにも彼らなりの誇りというものがありましたから。
「何か方法はないかね太陽さん?」
「私は頭が悪くて無理だよ北風さん」
 話し合えどこれといった方法は浮びません。二人は完全にうなだれてしまいました。鼻歌を歌いながら歩く女の後ろ姿がやけに気に触りました。


 先回りして待ちかまえます。このまま女を逃がしては北風と太陽のメンツが立ちません。何も策はないままうろうろしています。
「これこれどうしたんだいお二人さん」
 と、その時後ろから声がかかりました。はっと振り向くと、一人の可愛らしい少年が佇んでいました。凛々しい顔立ちの、真ん丸お目目のぱっちり二重瞼の愛嬌のある、女の子といっても差し支えないほどの美麗の少年でした。眼差しは澄みわたり口元はきりりと引き締まりとても賢そうに見えます。
「あなたは誰ですか?」
 北風は聞きました。
「僕はセルゲイ・アントニウス・コメージ・コイシスキーって言うんだ。偉くて伯爵をしているんです。僕のお城には十人の腹心がいて百人の侍女が住んでいる。千人の部下がいて一万人の兵士がいる。城下町には十万人にの民がいて僕の影響力は百万人以上にも及びます」
 コイシスキーと名乗った伯爵少年は、利発そうにぺらぺらと喋りました。見れば見るほど伯爵そのものです。几帳面に仕立てられたスーツにはぴかぴか光るボタンがいくつもくっついているのです。まばゆいほどの光がこの少年を後ろから後押ししていました。
「うにゅ。それはすごいですね伯爵様」
「これはこれは伯爵様。ははー」
 少年のオーラに圧倒されたのか、北風と太陽は畏まっておじぎをしました。北風なんか土下座までしています。
「うん、ところで君達こんなところでどうしているんだい? 見たところお困りのようだけど」
「あの実はですね伯爵様……」
 二人は少年に今までの経緯をつらつらと説明しました。少年はその話をうんうんと頷きながら、熱心に聞き入っています。
「それは困りましたね。どうでしょう? ここはこの僕が一肌脱ぎましょうか?」
「いえいえいえ、そんな伯爵様のお手をわずらわすなんて」
「そうです。お手をわずわらわらわらなんて」
「いえ僕は一度決めたらやるんです。絶対に脱がせてみせます」
 一進一退の話し合いが続きましたが、伯爵の一途な思いは変わりませんでした。
「そうですか。伯爵様。どうかお気をつけてください。あの女は生意気でケチで意地悪でその上低体温です。身も凍る冷たい心の持ち主です」
「伯爵様。ご武運を」
 二人が少年を鼓舞します。
「うんうん。僕は大丈夫だよ。それに北風さん。女の人をそんなに悪く言うもんじゃない。彼女には彼女なりの考えがあるんだ。それに水を差しちゃいけない」
「そうですかわかりました。私達はここで見ていますね伯爵様」
「うむ、うむ」
 コイシスキー少年は鷹揚に腕を組んで頷き、あの女の下へと歩いて行きました。もしゃっとしたくせっ毛が、優雅に風になびいています。


「これこれそこのおね……お嬢さん」
 少年は女に声をかけました。しかし女はつんとした表情で無視をしました。まるで少年など眼中にないかのように。
「これこれお嬢さんお待ちなさい」
「あらやめてくださいな。触らないでくださいな」
 女は肩に置かれた手を振り払いました。
「どうしてです? 僕はあなたとお話したいのです」
「何をご冗談を……。私は下賎の出でございます。あなたのような高貴な身分の方とはお関わり合いになどなれませんわ。いらぬ噂が立ちます。どうかご容赦を」
 しおらしげにして女は立ち去ろうとします。
「そんなの関係ありません。僕はあなたに興味を持ったのです。僕には何人部下がいても恋人がいないのです。どうしてか僕には縁がないのです。あなたは運命の人です。これが一目惚れというやつです。どうか僕のお嫁さんになって欲しい」
「ああいけないわ。そんな」
「さぁ僕とともに」
「いえ、いいえ」
 二人の男女はもみ合いになりました。少年が手を握れば女が振り払います。女の拒絶は頑なでした。
「下賎ですわ。いけません。伯爵様に迷惑がかかりますわ」
「僕はあなたでなければ駄目なのです。身分なんて構いません。僕はあなたの全てを理解したいのです」
「ああ、駄目」
 少年の弁舌は巧みでした。押し合いへし合いしている内に、あれほど閉ざされていた女の心がほどけていきます。
「ああ伯爵様。なんていけない人。本気で愛してしまいそう」
「いいのですよそれで。さぁ愛し合いましょう」
「あっ」
 少年が女の細い体を抱き寄せました。二人はひしと抱き合い愛を分かち合います。
「ああこれが愛なのですね伯爵様」
「そうですこれが愛なのです。あなたは慌しい日常の中で忘れていたのです」
「嬉しい……私……」
 ピンクのスポットライトが灯ります。何やらいやらしげな雰囲気です。
「一つ頼みごとをしていいですかお嬢さん?」
「ええ……伯爵様の頼みならなんとでも……」
 女の目が潤んでいます。彼女は一瞬で伯爵の愛の虜になってしまったのでした。
「それでは、今から服を脱いでもらいます。男と女は愛し合うものなのですから」
「そ、そんな……恥ずかしい、こんな場所で」
「善は急げです。さぁ早く早く」
 少々迷いましたが、女は急かされてあれよという間に上着とスカートを脱いでしまいました。白い下着だけになり、恥ずかしげに地面にしおしおと倒れこみました。
「あん……恥ずかしいですわ伯爵様。どうしてこんなことを……。でも伯爵様が言うのなら」
「まだ終わりではありませんよ。さぁその薄い下着もお脱ぎになってください。一枚脱いだら二枚も三枚も同じこと。さぁさぁ、さぁさぁさぁ!」
「ああそんな! およしになってください。私素寒貧になってしまいますわ」
「それで結構です。僕がもらってあげるのですから。あなたのものは私のものです。何も気に病むことはありません」
 少年はそこで女の目をじっと見つめました。視線がぶつかりあい、複雑微妙な意思の疎通が行われます。
「伯爵様……。わかりました。仰せのままに」
 女はダンスを踊るようにしながら下着を脱ぎ捨てました。痩せた白い体が、生まれたままの姿で冷たい地面に横たわっています。
「これで私は何も持たぬ女ですわ。あなたがそうさせたのですよ伯爵様」
 陶然とした瞳。上目遣いで見上げます。
「いえ……まだ残っていますよ」
「ええ? なんですの? 私にはもう何も……」
 少年が凍えそうな手をぎゅっと握り締めました。そしてつぶやきます。
「あなたの心の下着も全て剥ぎ取ってあげたいのです。まだまだ。全然です」
「ああ伯爵様……私……」
 見つめ合いながら二人は接吻しました。そのまま抱き合い崩れ落ちます。
 見事、女の服は全て脱がされてしまったのでした。


「いやいや。さすが伯爵様。おみそれしましたね」
 一部始終を見ていた北風が言いました。
「さすが伯爵様。素晴らしい! うにゅ!」
 太陽も同じく言いました。
「これでめでたしめでたし……? いや、誰か来る」
「え? 何々?」
「しっ、太陽さん。危険な香りがするよ。隠れて隠れて」
「うにゅ、うにゅうにゅ……」
 北風と太陽は息を潜めました。辺りに闇がぽたりと落ちていきます。
 愛し合う二人の前に暗雲が立ち込めようとしていました。


「ひぃ、妬ましい。男と女。妬ましい」
 突然、黒マントを被った謎の存在が出現しました。
 ああなんということでしょう。二人は愛し合うのに夢中で、迫り来る危険に全く気づきません。
「伯爵様、伯爵様」
「もっとですお嬢さん」
 黒い影はゆらゆらと蠢きながら近づいてきます。黒マントの中からにゅっと白い手が伸びてきました。そこにはぎらりと光る包丁が握られています。
「私は夜叉。妬ましいものは全て殺してしまえ!」
 凶刃が振り下ろされました。まず少年に。頭に一撃即死です。次に女に。これは二度三度。女は何が起こったかわかりません。
「まだまだ。殺すだけでは物足りない。面の皮が厚くて妬ましい。全身の皮を剥いでしまえ」
 垢が溜まりきった爪でべりべりと皮膚が剥がされていきます。それはとてもとても陰惨な光景でありました。頭の先から足の先まで念入りに剥がされました。
「よぉし。さぁもう私を妬ましくさせないでおくれ。さらば皮はもらいうけた」
 黒マントは大きく翻り、闇の中に溶け込んでいきました。
 寂しげな静寂の鐘が鳴り響きます。伯爵と女の無残な死体だけが残っています。
 しばらくして、北風と太陽が死体の前に降り立ちました。
「あれあれ? どうして二人は殺されたの北風さん?」
「私にはわからないね太陽さん」
 太陽は照らしました。冷たい風がごうと吹き荒れます。
「女は服を全部脱いだの北風さん」
「私にはわからないね太陽さん」 
「で? どうするの?」
「うーん」
 北風と太陽は頭を悩ませました。どうもこのままでは二人がかわいそうに思えたからです。ずっとこの冷たい空気に晒され続けるのですから。 
「太陽さん。せめてもの慰めに弔ってあげようか。お前さんの熱で肉も骨もこなごなになるまで焼いておくれよ」
「うにゅ。わかった北風さん。それ!」
 太陽が中天から膨大なエネルギーを注ぎ込みました。二人の体はぼっと燃え上がり、消し炭になってこなごなになりました。
「ありがとう太陽さん。さて私が空気に乗せて天へ導いてあげよう」
 北風の腕がぐるんと回りました。塵のようになった少年と女の欠片は、ぐるぐると混ざり合いながら、真っ黒な空へと吸い込まれていきました。
「……消えちゃったね」
「ええ太陽さん」
 妙に物悲しい気持ちになりました。いつの間にか夜になっていたようです。満天の空にはお星様がキラキラと輝いて見えます。
「祈りましょうか太陽さん。二人のために」
「うにゅ!」
 北風と太陽は両手を合わせて目をつぶりました。煌く夜空の星は誰かの魂なのでしょうか。それは誰にもわかりません。
 太陽が立ち去ると暗闇は更に深まります。重い緞帳が垂れ下がり終焉を告げました。


   演目 終
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